広島高等裁判所 平成元年(う)48号 判決
論旨は要するに,…中略…被告人Oは右産業廃棄物をみだりに捨てたものではなく,この点において原判決には判決に影響を及ぼすべき事実誤認があるというものである。…中略…
所論は,(1)被告人は本件ため池の下にある田の所有権を本件ため池の水利権とともに取得していたこと,(2)被告人と本件ため池の所有者Aの夫であるKとの間で,同人に対する貸金200万円の返済がないときは本件ため池及びその下にある2つのため池の所有権を移転するとの約束があったことを根拠に,被告人において本件ため池を使用するについて,正当な権限があると信じていたものであると主張する。
しかしながら,右(1)の点については,仮にその主張のとおりだとしても,水利権本来の性質に照らし,それが本件ため池を産業廃棄物の置場所としたり,ここに右廃棄物を投棄したりすることができる権限を発生させるものとはなり得ず,これが被告人Oの本件行為を正当化し得るものとは考えられない。
また,右(2)の点について言えば,所論のような約束の存在を否定する原審証人K,同Aの各証言に照らすと,所論のいうような事実を軽々に認めることにもちゅうちょがある上,仮に所論のいうような約束があったとしても,そのことから直ちに本件ため池を本件のような態様で使用する権限が発生するものではない。
そして,原審証人Kの証言及び被告人の司法警察員に対する供述調書によれば,本件違反行為の相当以前に,被告人Oは本件ため池につき右K名義で所有権移転請求権仮登記がなされていることを知り,同人に対して右仮登記を抹消してほしい旨の交渉をしたが成功しなかったこと,したがって同被告人は既に本件ため池につき他に正当な権利を有し,かつ利害が対立する第三者が存在することを知っていたことが認められ,これらの事情を総合すると,同被告人が本件ため池を本件違反行為のような態様で使用することにつき正当な権限があると信じていたなどという弁解自体不合理であって到底措信することができない。
それに,そもそも廃棄物の処理及び清掃に関する法律が廃棄物の投棄を規制する目的は,廃棄物により清潔な生活環境が破壊され,損なわれることを防止しようということにあるのであるから,廃棄物の不法投棄の罪が成立するか否かについては,その投棄された土地の利用権の有無とかその内容とかは直接関係がなく,仮に自己の所有地であっても「みだりに」廃棄物を投棄した場合には不法投棄罪が成立するというべきところ,その投棄した土地の所有権や利用権の有無及び内容は,廃棄物の性質,形状,数量,地理的関係等と関連して,その投棄が「みだりに」されたものかどうかの判断基準の一つになり得るにすぎないのであり,これを本件について見れば,後記のような本件廃棄物の性状,数量,地理的関係等に照らし,所論のごとき本件ため池の使用についての被告人Oの認識内容は,仮にそれが事実だとしても,何ら本件違反罪の成否を左右するものではないというべきである。以上いずれの見地からしても右所論は採用することができない。
次に所論は,被告人Oは,本件ため池の隣接地に廃棄物の管理型処理場を建設するため,その工事現場から出た本件廃棄物を,しばらくの間だけ本件ため池に置いたものであるから,これを「みだりに捨て」る意思はなかった旨主張する。
しかしながら,既に述べたような廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規制目的からすれば,仮に暫定的に廃棄物を一定の場所に置く行為であっても,その廃棄物の性質,形状,数量,地理的条件,行為の態様,廃棄物を置いていた時間等からして,その廃棄物をその場所に置くことが何ら周囲の生活環境の清潔を損なうおそれがないことが明らかな特段の事情がある場合はともかく,そうでない限りは,その廃棄物を,それを捨てることが禁止された場所に置いた以上,直ちにこれが「みだりに捨てた」行為に当たるというべきであり,したがって右のような廃棄物をその場所に置くことの認識があれば,これをみだりに捨てる意思があったというべきである。
これを本件について見れば,一件記録上右のような特段の事情の存在をうかがわせるような証拠はなく,かえって関係証拠によると,本件廃棄物が置かれた場所は山間部のため池でその下方は田畑と集落が広がる地形であるところ,本件廃棄物は総量約500トンに達する鉄,珪素,マグネシウム等を主成分とする燃えがら,鉱さい,汚でい等の産業廃棄物であること,被告人Oは,本件ため池の近くに廃棄物の処理場を建設しようとしてそこを掘削して工事に着手したが,そこから掘り出された右鉱さい等の処理につき,これを被告会社の最終処理施設(F市Y町所在)まで運搬して処理するとすれば多大の労力と費用を要するとしてこれを嫌い,ちょうど右工事現場の近くにあった本件ため池につき,いずれはこれを自己ないしその関連会社の所有としたい意向であったことに加えて,その所有者の夫である前記Kと従前から仕事を通じて交際があり,同人に資金を融通していたこと等経緯があったことから事を安易に考え,原判示の共犯者2名と共謀の上,同人らをして本件廃棄物を右ため池に搬入させてこれで右ため池を埋め立てさせたことが認められ,このような事情に徴すると,被告人Oの右のような外形的行為は,前記法律にいう「みだりに捨てた」行為に当たることが明白であり,同被告人が右のような事実を認識している以上,同人において本件廃棄物をみだりに捨てる意思があったというべきである。